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社会の中で個人や集団がどのような条件の下でどのような行動を示すのかを研究する学問を、社会心理学といいます。
セミナーや営業では、こうした社会心理学的な人間の特性を利用し、場を煽るテクニックが使われることがあります。

私たちは自分の意志とは無関係に、人間が持つ心理的特性から知らず知らずのうちに自分自身が本当に願ってはいないほうへと流されてしまうことがあります

そこで今回は、場の状況に流されるのではなく、自分が心から求めていると思える判断をするために、注意したい社会心理学の情報についてまとめました。

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セミナーや営業などで利用される心理テクニック

フット・イン・ザ・ドア・テクニック

フットインザドアテクニックとは、初めに心理的ハードルの低い頼みごとをして承諾してもらうと、その後 より心理的ハードルの高い頼みごとをした場合、最初の頼みごとをしていないときに比べて承諾率が格段に上がる、という人間心理を利用した交渉術です。
営業マンが玄関先で片足をドアに入れて閉まらないようにする動作が名前の由来になっています。

スタンフォード大学の社会学者スコット・フレーザーとジョナサン・フリードマンは、1966年にフットインザドアの効果を実証した実験を行いました。
彼らは戸建住宅を訪問し、「庭に交通安全の看板を設置させてほしい」という依頼をどれくらいの住民が承諾してくれるのか調査しました。

この時、1つ目のグループには、「庭に交通安全の看板を設置させてほしい」と、いきなり本命の依頼をしました。
2つ目のグループには本命の依頼をする前に、「交通安全に関する小さなステッカーを窓か車に貼ってほしい」という小さな依頼をし、それに承諾してくれた人に、後日「庭に交通安全の看板を設置させてほしい」という本命の依頼をしに行きました。

すると、いきなり本命の依頼をした1つ目のグループの承諾率が16.7%だったのに対し、先に小さな依頼をしておいた2つ目のグループの承諾率は76.0%に跳ね上がりました。

小さな依頼をしておくことで、本命の依頼の承諾率が飛躍的に上がったのです。
これは人間が持つ、「行動に一貫性を持ちたい」という心理から起こる現象です。
フットインザドアテクニックを使われた人は、一度目の依頼に対して見せた承諾する姿勢を、二度目の依頼の際に崩したくないと思うのです。

フット・イン・ザ・ドアがセミナーで利用される例

例えば、セミナーや営業の場で、初めに小さな依頼をされて承諾してから、より金額的にも大きな依頼をされることがあるかもしれません。

そうした状況に置かれると、最初の依頼を受けた手前、次の依頼も受けなければと無意識に思ってしまいますが、もし、その頼みごとだけが単体でされていたとしたら自分はどう感じるのか、ということを冷静に捉えられるようになると、正しい判断を下すことができます。

ドア・イン・ザ・フェイス

ちなみに、フットインザドアとは逆の手法を取った「ドアインザフェイス」というテクニックもあります。
これは、先に大きな頼みごとをしてから小さな本命の頼みごとをすることで、その小さな本命の頼みごとの承諾率が上がる交渉術です。

例えば、初めに高額な契約や商品を提案し、そのあとで、比較的安価な契約や商品を提案されると気持ちが揺らぎやすい、というような状況が当てはまります。

私たちは、相手が譲歩してくれた手前、こちらも同じだけ譲歩しなければという心理からつい契約・購入しそうになることがありますが、「初めにされた頼みごとよりは…」と流される前に、落ち着いてから判断するようにしましょう。

内集団バイアス

「内集団」とは自分が所属感を抱いているグループのことを指します。反対に、自分が所属感を抱いていないグループのことを「外集団」といいます。

私たちはしばしば「内集団は優れていて、外集団は劣っている」という錯覚を抱いてしまいます。この内集団に対する“えこひいき”のことを社会心理学の用語で「内集団バイアス」と呼びます。

「内集団バイアス」は以下のような日常生活の様々な場面で見ることができます。

・ワールドカップで自国を応援したくなる気持ち
・ランダムに決められたはずの運動会の紅白分けでも盛り上がってしまう現象
・年配の人が「最近の若いモンは…」と言ったり、若者が年配の人を「老害」と言ったりする現象
・女性が「男性は〇〇だから…」、男性は「女性は〇〇だから…」と言い争う現象
・応援している野球チームが違うことで、サポーター同士の激しい喧嘩が勃発する現象

こうした行動や心理には、「内集団バイアス」が関わっています。
「内集団バイアス」は内集団に対する好意的な行動をもたらす一方で、外集団への差別的な言動を生むことがあります。

内集団バイアスがセミナーで利用される例

セミナーなどに継続的に参加するうちに、メンバーに対して所属感や好意的な行動が芽生えるのは素敵なことですが、そうした感情に支配されすぎて、コミュニティに依存しすぎたり、メンバー外の人に対して差別的な態度を取ったりしないように注意したいですね。

例えば、「このセミナーに来ている人たちは特別で、他の人たちは劣っているのだ。」などとしつこく煽り、「内集団バイアス」を高めようとしてくるセミナーの空気を感じたら熱量に飲み込まれずに、冷静な判断をするようにしてください。

同調行動

同調行動とは、多数派の意見につい流されてしまう人間の心理的傾向のことです。

アメリカの心理学者アッシュが行った同調行動に関する有名な実験があります。

紙に書かれた3本の線を8人の実験参加者たちに見せて、一番長い線はどれか、と聞くものです。この実験参加者のうち、本当の被験者は1人で、あとの7人は実験者が仕込んだサクラ(おとりの被験者)です。7人のサクラたちは明らかに誤っている回答を述べるのですが、本当の被験者である1人はそれにつられて誤った回答を選択してしまいます。
結果的に、被験者の75パーセントが少なくとも1度はサクラの答えに同調しました。

このアッシュの同調実験に関連して、社会心理学では非常に有名なミルグラムの服従実験という実験があります。

「記憶と学習に関する実験」として新聞広告によって募集された被験者たちは、生徒役と教師役にくじで振り分けられます。しかし実際は、くじは操作されており、生徒役はサクラで、被験者たちは必ず教師役になるように設定されていました。

この実験の本来の目的は、人間は権威者からの命令とあればどこまで残虐な行為に加担してしまうのかを明らかにするためのものでした。

生徒役(サクラ)は問題を解かされます。生徒役が間違えるたびに、教師役にされた被験者はより強い電気ショックを生徒役に与えるよう、実験者に命じられます。
実際に電気ショックは流れていないものの、サクラの生徒役は、教師役の被験者が電気ショックを与えるたびにうめき声をあげます。うめき声が絶叫に代わっても、実験者は「大丈夫です」「続けてください」と言い続けます。結果的に、教師役にされた被験者のうち65%が、実験者に命じられるまま、命の危険がある450Vのショックを与える選択をしてしまいました。

私たちは、明らかに誤っている答え、指示に対しても、同調圧力に流されてしまうことがあるのです。

同調行動がセミナーで利用される例

例えば、セミナーや営業の場などで、「自分にはいまいちしっくり来ていないけれど、他の参加者がすごくためになったと言っているし、素晴らしいのかもしれない。」と思ってしまうことがあるかもしれません。
しかし、周りの人は、そのセミナーの仕込んだサクラであるかもしれませんし、あなたとは全く別の価値観を持っている人たちかもしれません。

他人に惑わされずに意見を持つことはなかなか難しいことではありますが、自分自身が本当に「良い」と思えるかどうかを基準にして判断したいですね。

自らの意志で本当に欲しい情報を手に入れよう

本記事ではセミナーや営業などで利用される心理テクニックを紹介しました。

  • 1度頼みごとを聞くと、2度目の頼みごとも引き受けてしまう
  • 自分と同じグループに属している人にはつい優しくしてしまう
  • 明らかに誤っているものでも、周りの意見に流されてしまう

日常生活にもしばしば現れるこうした心理、行為は、単にあなたの性格によって引き起こされるのではなく、人間の心理的な特性に由来しています

「〇〇な状況で人間は〇〇な行動をとってしまいがちだ。」という知識を持っていれば、いざ自分がそうした状況に置かれた時も、客観的な視点で冷静な判断をくだすことができます。

相手のペースに乗せられるのではなく、自らの意志で本当に欲しい情報を手に入れられるように意識してセミナーに参加しましょう。

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