笑顔の女性従業員

「採用した優秀な人材がすぐにやめてしまう」といった悩みを持っている企業には、従業員エンゲージメントに問題があるかもしれません。

これからの企業にとって、顧客満足度と同じくらい重要なのが「従業員エンゲージメント」です。顧客に選ばれるだけでなく、労働市場でも選ばれなければ、企業は競争優位に立つことはできないからです。

従業員エンゲージメントとは何か、高めるためにはどうしたら良いのか、詳しく解説していきます。

エンゲージメントをわかりやすく解説

エンゲージメント(engagement)は人と人との結びつきを意味する英単語です。
一般的には、「婚約」「誓約」「契約」「約束」などを意味します。婚約指輪のことを英語で「エンゲージメント・リング」と呼ぶことからも、そのニュアンスがイメージできるでしょう。

エンゲージメントはビジネスの現場でも頻繁に使われる言葉です。幅広い場面で使われるので、訳し方や意味合いは場面によって少しずつ異なりますが、「人と人との結びつき」というニュアンスは変わりません。

ビジネスにおけるエンゲージメントの意味

ビジネスの現場で使われる「エンゲージメント」という用語は、主に対従業員と対顧客の2つの意味で使われます。従業員エンゲージメントと顧客エンゲージメントについて、意味を押さえていきましょう。

従業員エンゲージメント

「従業員エンゲージメント」は、主に人事領域で使われる用語です。従業員が職場に定着していることや、自社に愛着を持っていることを意味します。「従業員エンゲージメントが高い」と言った場合、従業員の定着率が高く、離職率が低いことを表します。

従業員が会社に愛着を持つためには、会社も従業員のために努力をする必要があります。そのため、最近では「従業員と組織が対等な関係を築き、互いの成長に貢献し合う関係」が従業員エンゲージメントである、とする考え方もあります。

人事担当者の方にこの記事を役立てていただくため、従業員エンゲージメントについて詳しく解説していきます。

顧客エンゲージメント

主にマーケティングなど販売部門で使われる「顧客エンゲージメント」についても、意味を押さえておきましょう。この用語は顧客との関係性を指し、顧客がどれくらい企業のブランドに愛着を持っているかを指す言葉です。定着率やリピート率に似ている用語です。

「顧客エンゲージメントを高める」というのは、1人の顧客が商品やサービスを繰り返し購入してくれるように工夫する、と言い換えられます。顧客エンゲージメントが高い企業は安定した売上の継続が見込めるので、特にマーケティングや営業部門で重視される概念です。

従業員満足度・ロイヤルティとの違い

エンゲージメントの違いを説明した図
「従業員エンゲージメント」と似た用語に、「従業員満足度」と「ロイヤルティ」があります。これらの用語の意味を復習し、従業員エンゲージメントとの違いを理解しましょう。

「従業員満足度」とは、従業員が自分の待遇についてどれくらい満足しているかを表す指標です。給与や仕事内容、職場環境に対しての満足度を指しています。基本的には、「会社から与えられるものに対し、従業員は満足しているか」という意味で、従業員が会社を評価するような指標です。従業員エンゲージメントは従業員と会社の相互の結びつきなので、一方向か双方向かという点が異なります。

「ロイヤルティ(loyalty)」とは、忠誠心という意味の英単語です。従業員が企業に対してどれくらい忠誠心を持っているかを表しています。他の指標を含めずロイヤルティだけを取り出すと、「従業員が会社のために尽くす」という意味になるので、こちらも一方向の関係性となります。従業員エンゲージメントは双方向の関係性なので、ロイヤルティとも意味が異なります。

従業員エンゲージメントが注目される背景

従業員エンゲージメントが注目される背景には、日本の企業における年功序列と終身雇用の崩壊があります。

従来の日本の社会では年功序列が一般的で、本人の実力や能力よりも年次が報酬に反映されてきました。若いうちはがむしゃらに下積みをし、年齢とともに役職と給与が上がっていく、という仕組みです。誰もが定年まで安定した職業に就けるメリットがある一方、どれだけ努力しても給与に反映されにくいので、「努力しても無駄だ」と感じてしまう人も多くいます。

しかし、近年では年功序列や終身雇用が崩壊しつつあります。2019年10月には、日本のみならず世界を代表する自動車メーカー、トヨタ自動車の豊田社長さえ、「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言しました。

一方で労働市場が活性化し、新卒で入社した数年後に転職したり独立したりする人も珍しくありません。労働者のほうも、「特定の企業で生涯務め上げる必要はない」「より良い待遇を求めて、どんどん転職していく」と考える人が増えているのです。

こうした環境において、企業が懸念するのが人材流出です。優秀な人材を採用して育成しても、数年後に退職されては困ります。

そこで注目されているのが「従業員エンゲージメント」です。従業員が会社に愛着を持ち、会社もまた従業員が定着するような工夫を行うことで、優秀な人材が流出するのを防ごう、という背景があるのです。

従業員エンゲージメントを高めるメリット

やる気に満ちた従業員たち
従業員エンゲージメントを高めることは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。

優秀な人材が定着する

従業員エンゲージメントを高める最大のメリットが、優秀な人材が辞めにくく、定着しやすいことです。従業員エンゲージメントが高い企業は、従業員から愛されており、人材が定着しやすく離職率が低い傾向にあるからです。

せっかく優秀な人材を採用して育成しても、転職や独立して外部に流出してしまう、といった悩みを抱えている企業は多いです。これは、会社に留まるよりも環境を変えたほうが良い、と従業員が考えているために起こります。従業員が会社に期待しておらず、従業員エンゲージメントが低い状態です。

会社と従業員の間に信頼関係を築き、従業員エンゲージメントを高めることで、従業員は「転職はせず、この職場で仕事を続けたい」と思ってくれるようになります。優秀な人材を手放さないためにも、従業員エンゲージメントを高めることは大切です。

売上・利益が向上する

従業員エンゲージメントが高い企業は、売上や利益も高い傾向にあります。従業員が自発的に仕事に取り組み、成果を上げてくれるからです。

従業員エンゲージメントが低い企業では、従業員は会社に対して不満を抱えているので、自発的に仕事に取り組みません。良い仕事をしようという意識はなく、上司に指示されたことだけを行います。これでは、会社の売上や利益は現状維持どころか低下していってしまいます。

従業員エンゲージメントが高い企業の従業員は、会社が自分に期待していることを理解しています。仕事が会社と自分の両方の成長につながることもわかっています。そのため、従業員は積極的に仕事に向き合い、指示されたことだけでなく、より良い仕事のために努力するのです。このような連鎖により、企業の売上や利益の向上など良い結果が表れます。

従業員のモチベーションが上がる

従業員のモチベーションが上がることも、従業員エンゲージメントを高める大きなメリットです。従業員エンゲージメントが高い企業の従業員は、自分が企業から期待されていることを知っているので、モチベーション高く仕事に取り組むことができるのです。

従業員エンゲージメントが低い企業の従業員は、「頑張っても無駄」「ダラダラ仕事をして残業代を稼ごう」といった思考になりがちです。自分が会社から期待されていることを知らず、また自分も会社に期待をしていないからです。このようにモチベーションの低い状態で仕事をしても、従業員が素晴らしい成果を出すことはできません。

従業員はモチベーションが高いほど、積極的に仕事に取り組み、当たり前の品質を上回る仕事をしてくれます。結果的に企業の業績向上につながるので、従業員エンゲージメントを高める重要性が理解できます。

やる気を自動継続・創造させるモチベーションアップ研修

感情にアプローチすることで“やる気”を無理やり出すのではなく、自動継続・創造していくモチベーションアップ研修です。 社員一人ひとりが心の底からワクワクして、イキイキと楽しく働ける環境を自らつくるスキルを解説していきます。

一人ひとりのモチベーションアップが組織を活性化し業績を最大にする

従業員エンゲージメントを向上させる方法

従業員エンゲージメントを向上させるには、従業員の仕事への意欲が高まるよう、会社が工夫する必要があります。主な方法を解説していきます。

やりがいのある仕事を与える

やりがいのある仕事を与えることで、従業員エンゲージメントを高めることができます。当たり前のことですが、どのような仕事にやりがいを感じるかは、人それぞれ異なります。従業員ひとりひとりと向き合い、やりがいを感じられるようにマネジメントする必要があるのです。

仕事にやりがいを感じているか、やりがいがなくモチベーションを持てずにいるかなどは、個別の面談で確認します。やりがいを感じていない従業員がいたら、その原因を一緒に考え、どうすればやりがいを感じられるのか解決策を検討しましょう。仕事の内容や量を調整したり、配属を変更したりといった手段が考えられます。

上司や人事担当者と一対一の面談では本音を言いにくい、という従業員が多いなら、匿名のアンケートを実施します。やりがいを感じている・いないといった二択の質問だけでなく、「会社に求めることは何か」など抽象的な質問に文章で回答してもらい、従業員のニーズを拾いましょう。

働きやすい職場を作る

従業員にとって働きやすい職場を作ることも、従業員エンゲージメントを高める大事な手段です。男女関係なく育児休暇を取ったり時短勤務ができる仕組みや、リモートワークの導入など、企業には従業員が望む働き方を叶える努力が必要です。

近年、多くの企業にとって大きな課題となっているのが、リモートワークです。情報漏えいの観点から導入が難しいだけでなく、導入できたとしてもうまく使いこなせていない企業が多いのです。従業員によってもニーズが異なり、出社したい人と在宅勤務したい人がいるだけでなく、出社と在宅を半々くらいにしたい人もおり、なかなか一つの方法で解決することができません。

一口に働きやすい職場と言っても、従業員によってその意味するところは異なります。一人一人の希望をヒアリングし、なぜその環境を望むのかを踏まえ、企業と従業員の双方にとって良い解決策を考えましょう。

成果が評価される仕組みを作る

従業員エンゲージメントを高めるには、成果が適切に評価される仕組みを作ることが重要です。年功序列で評価する企業は今も多いですが、これでは若手社員が離れやすくなってしまいます。成果が報酬や役職に反映される仕組みを作らないと、優秀な人材の流出を招いてしまいます。

成果を待遇に反映するためには、評価基準の設定に工夫が必要です。客観的に成果を評価するためにも、スキルマップなど明確な評価軸を導入し、そのスコアに基づいて給与を算出するといった方法が挙げられます。上司や経営者の主観が入らないよう、客観的に明らかな指標を作りましょう。

おすすめの働き方改革研修

働き方改革研修

働き方改革に取り組むことは、会社の社員のみならず、企業にとってもメリットがあります。生産性の向上が業績の向上につながり、事業拡大や株価の上昇につながるからです。社員の意識を変革するために有効な「働き方改革研修」について解説していきます。


従業員エンゲージメントを高めた企業の事例

独自の取り組みを行い、従業員エンゲージメントを高めた企業の事例を紹介します。自社に活かせることはないか、参考にしていきましょう。

ユーザベース

ユーザベース公式サイト
株式会社ユーザベースは、ソーシャル経済メディアの『NewsPicks』や経済情報サービスの『SPEEDA』などを提供する、日本の情報系・インターネット系企業です。2008年に設立した同社は急拡大し、社員数は約200名となり、海外にも拠点を置いています。

社員数が急増するに従って、経営陣と社員の間にズレが目立つようになりました。設立時のメンバーでない人が多くなり、企業のビジョンやバリューを理解していない人が大半になったからです。

そこで、人事制度の設計や評価、どのような目標を設定すれば個人の成長につながるのか、勉強会を実施しました。こうした取り組みを通じて会社の目指す方向を社員に理解してもらい、社員は納得して働くことができるようになりました。

佐竹食品グループ

佐竹食品グループ公式サイト
佐竹食品はスーパーマーケットを展開する企業で、総合食料品スーパーマーケット『satake』、生鮮特化型の業務スーパー『TAKENOKO』を展開しています。大卒3年以内の離職率が3割を超える小売業界において、従業員エンゲージメントを高めることに成功しています。

従業員エンゲージメントを高める取り組みのひとつとして、「ありがとう総会」を実施しています。2年に1度、全店舗を休業し、全社員を集める会合です。1日休みにするだけで1億円規模の売上が減りますが、社員に理念やビジョンを共有するほうが大切だと考え、取り組んでいるそうです。

リンクアンドモチベーション

リンクアンドモチベーション様公式サイト
リンクアンドモチベーションは、モチベーションクラウドを提供する経営コンサルティング会社です。「社員のモチベーションこそが会社の成長エンジン」と考え、従業員エンゲージメントを高めるサービスを提供すると同時に、自社の従業員エンゲージメントを高める工夫を行っています。

同社が企業の課題としているのが、従業員エンゲージメントの度合いを測る基準です。成果を可視化できる「エンゲージメントスコア」を開発し、それを計測し把握できる「モチベーションクラウド」を運用しています。

【人間関係の悩みを解決し社内活性化を図る】ホスピタリティ・コミュニケーション研修

本研修ではホスピタリティをコミュニケーションに生かし、相手を思いやる、血の通うコミュニケーションを一方的な講義ではなく、ロールプレイングやワークショップを通じて気づきを得ながら学びます。

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